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コラム

学びの個別化を促す反転授業ってどんなもの?

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2021/02/19
反転授業とオンライン授業で教師に求められること

教員を目指す人なら「反転授業」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。ICTを活用し、授業と宿題の役割を逆転させて行う教育手法です。この反転授業が、新型コロナ対応のオンライン授業の必要性の高まりとICT環境整備の加速によって、再び注目を集めそうです。反転授業とはどのようなものか、メリットや課題、教員に求められる力を考えてみます。

従来の授業と役割を反転させる

反転授業のルーツとなる実践は、2007年にアメリカ・コロラド州の高校教師、ジョナサン・バーグマンとアーロン・サムズ両氏によって始められました。化学の授業に出席できない生徒のために自分たちの授業を撮影し、オンライン上に公開したのが始まりです。動画は欠席した生徒だけでなく、他の生徒も視聴していたことから、生徒たちに新しい単元の講義動画を自宅で見て予習し、学校の授業では、質疑や演習をおこなう方法を考案しました。授業を教室で聞いた後に、家で宿題や復習に取り組むという従来の授業スタイルとは真逆なことから「反転授業」と言われるようになりました。

この反転授業が世界に広く知られるようになったもう一つのきっかけは、オンライン学習サービス「カーン・アカデミー」です。単元ごとに短い動画コンテンツを視聴できるこのサービスが、反転授業の予習用ビデオとして利用されるようになったことがあります。

日本では、2011年、バーグマンとサムズの著書『反転授業』の翻訳により広まることになりました。監修者の東京大学大学院の山内祐平准教授(当時)は、その序文で、反転授業を「説明型の講義など基本的な学習を宿題として授業前に行い、個別指導やプロジェクト学習など知識の定着や応用力の育成に必要な学習を授業中に行う教育方法」と述べています。

新型コロナのオンライン学習で再注目

2010年代はじめは、動画共有サイトYouTubeの普及や、アップル社のタブレット端末「iPad」の登場により、ICTがより身近なものになりつつありました。反転授業は、当時、最先端の教育手法として、佐賀県武雄市の公立小中学校などICT活用に先進的な学校や地域で導入されました。ですが、現在に至るまで日本各地に広く普及するまでには至っていません。

最大の理由は、学校や家庭のICT環境整備が十分ではなかったことです。特に公立小中学校では教育用コンピュータ1台あたりの児童生徒数は6人台が長らく続き、2019年3月1日時点で1台あたり4.9人という遅々とした改善状況でした。また、学校の授業でのICT活用も進んでいませんでした。OECDのPISA(生徒の学習到達度調査)の2018年の調査結果によれば、1週間のうち、授業でのデジタル機器の利用率は、参加国・地域中、日本は最下位となっていたのです。

しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大でオンライン授業の必要性が急速に高まったことにより状況は一変しました。コロナ直前の2019年12月に国の「GIGAスクール構想」が打ち出され、小中学生に1人1台の学習用端末と、高校も含めた高速大容量の通信ネットワーク環境を一体的に整備することが決まりました。今回の休校措置を受けて、計画は前倒しされ、2020年度中に1人1台環境の実現を目指すことになっています。

公立学校に先駆けて、すでに生徒用端末や学校・家庭でのインターネット環境が比較的整っていた私立学校では、休校中のオンライン授業で、反転授業を取り入れる先生も現れ始めました。事前に配信した課題を生徒が予習し、Zoomなどを使ったリアルタイム授業で復習や演習などを行ったのです。

「ICT活用では諸外国に比べ”周回遅れ”」と言われる日本でしたが、反転授業が再び注目を集める可能性が出てきました。今後、学校のICT環境が整えば、端末を自宅に持ち帰り、反転授業用に配信された動画を、生徒が視聴する光景が日常的になるかもしれません。

反転授業のメリットと課題

反転学習のメリットは、生徒が自分に合った学び方で進むことができる、つまり「個別化」を促せる点にあると、バーグマンとサムズは言います。予習用の動画は「巻き戻し」や「一時停止」をして繰り返し視聴できすし、すでに分かっていることならば「倍速」にして視聴することもできます。好きな時間に視聴できるので、部活動などで忙しい生徒も時間を有効活用できます。学びの主導権が先生から、生徒に移るというわけです。

そして学校では、授業が質問や演習にあてるため、先生と生徒の対話が増え、一人ひとりの理解度を把握しやすくなるといわれています。また、生徒が家庭で視聴するため、保護者がわが子の学習内容を間接的に知ることにもつながります。これらのメリットにより、生徒は反転授業を支持している、とバーグマンとサムズは述べています。

一方、課題として考えられるのは、やる気のない生徒の意欲を高めることでしょう。いくら動画を配信しても、生徒の側に見ようとする気持ちがなければ、むだになってしまいます。バーグマンとサムズは反転授業の導入前も導入後も、10%の割合で落ちこぼれる生徒を出してしまっていたことを、著書で告白しています。生徒の学習意欲を高めることは、授業のスタイルに関わりなく、教育の永遠の課題と言えます。

もう一つの課題は、反転授業において生徒の学力をどう評価するかという点です。新学習指導要領では、「知識・技能」だけでなく、「思考力・判断力・表現力等」や「主体的に学習に取り組む態度」も評価しますから、学習のプロセス全体を把握するための工夫が必要となります。近年はオンライン授業のプラットフォームなどを活用して、生徒の思考の流れや、取り組んだ学習の手順などを可視化しやすくなってきています。AIなどのテクノロジーが反転授業の評価を手助けする時代もやってくるかもしれません。

反転授業では、先生の役割や「求められること」が変わる

反転授業における先生の役割はどのように変わってくるでしょうか。教室で一斉授業をしないので「先生が教えることがなくなる」というのは誤解です。まず、事前に配信する動画は、わかりやすく、ポイントを押さえた内容する必要がありますから、講義のスキルが重要なのは言うまでもありません。そして、対面の授業で生徒の質問に臨機応変に答えるためには、教科の構造や内容に精通していることも大切です。

教室は生徒が学びを深め、グループで問題解決をし合う場所となります。先生には、生徒の質問を引き出し、分からないところを探り当てて生徒が気づけるような投げかけで返す「ファシリテーター」の役割が大きくなっていきます。家庭での動画視聴を、生徒に進んでやる気にさせるような事前指導、クラスの雰囲気づくりや、生徒との信頼関係構築も不可欠です。

日本の高校での反転授業の先駆けとして知られる、近畿大学附属高校の中西洋介教諭は「反転授業の目的を理解して授業に取り組まなければ、反転授業は形式だけのものに終わってしまいます」と著書で安易な導入に警鐘を鳴らしています。

批判的思考力や問題解決力などの21世紀型スキルの育成には、知識伝達型のみの授業ではなく、学習者が主体的に学ぶ場が必要だと言われてきました。「先生が主人公」の一斉授業の教室から、生徒が自分に合う学び方を選ぶ、クラスメイトと協働するといった「生徒が主役」になれる方法の一つとして、反転授業は注目されています。ICT環境の整備だけでなく、どのような学習効果を期待するのか、それぞれの科目の中でどう生かせるのか、といった視点からも注目していきたいところです。

※参考文献
『反転授業-基本を宿題で学んでから、授業で応用力を身につける』
https://www.odyssey-com.co.jp/book/
ジョナサン・バーグマン/アーロン・サムズ著 山内祐平、大浦弘樹監修 上原裕美子訳
オデッセイ コミュニケーションズ 2014年

『反転授業の実践知――ICT教育を活かす「新しい学び」21の提言』
https://www.akashi.co.jp/book/b517326.html
反転授業研究会・問学教育研究部編 中西洋介著 明石書店 2020年

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