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全人教育に携わる喜びと、自らを変えていく勇気と

関西学院中学部 部長( 校長 ) 藤原 康洋 先生

全人教育に「本気で」取り組む

「心」と「体」と「教養」を育てる……そう聞きますと、程度の差こそあれ、どの学校でも取り組んでいることだという印象を持たれる方は多いかもしれません。本校もキリスト教主義に基づき、そうした全人教育に取り組む学校の一つです。

しかし、そこに「本気で」取り組んでいることが、実に本校らしい校風だと言えるでしょう。流行や世俗に流されることなく、生徒たちに届けるべきと信じる教育実践を、愚直なまでに取り入れ、守り抜いています。私自身、中学から大学までを本校で過ごした関学OBですが、こうした姿勢は私が生徒だったころからまったく変わりません。

中学では“規律”を、高校では責任の下の“自由”を

まず「心」。日々の礼拝や学校生活の様々な場面で、本学院のモット―である Mastery for Service(奉仕のための練達)の精神を学びます。また中学では“規律”を重視しています。他者の話を傾聴するとか、ルールを守るとか、高校以降も大切となることの基礎を着実に身に付けるのです。それをひとことで表現するなら「厳しい」学校だと言えるでしょう。

しかし高校に上がると、“自由”と“自治”が一層求められます。もちろん好き勝手にしていいという意味ではありません。自ら考え、自ら決める――権限がぐっと広がる代わりに、結果や責任も年齢相応に引き受けるわけです。

その成果か、「静」と「動」のメリハリを自分で判断できるのが本校の生徒たちです。たとえば毎日の礼拝では静かに祈りを合わせたかと思えば、讃美歌は腹の底から歌唱します(今はコロナ禍で制限がありますが)。ともすれば形骸化しがちなこうした宗教行事も、(信仰に関係なく)全力で取り組む心が育っているのです。

中学までの自分をリセットし、新たな自分として高校へ

中学と高校をはっきり区分していることは、別の角度からもメリットがあります。一般的な中高一貫校の制度下では、高3を最上級生として縦のつながりを学びますよね? しかし本校では、中・高に区切れがあることで、生徒会やクラブ活動などで中3がリーダーを経験できるようにしています。

高校進学時に自分をリセットできるため、いいことも悪いことも区切りをつけ、高校生として新たな自分をゼロからスタートできます。教員も中高と所属がほぼ完全に分かれており、中学時代の印象(フィルター)を通して生徒を見ることがありません。

電気も通っていない島で、ハードなキャンプ

次に「体」について。本校はもともと男子校でしたので、肉体の鍛錬を重視してきましたが、この伝統は共学化した現在にも受け継がれています。たとえば、1日3km×週4日の駆け足は欠かしません。

中2の夏、岡山県の牛窓沖に学院が所有する「青島」で行うキャンプも名物行事の一つです。キャンプと言っても、電気さえ通っていない島で、自分たちでテントを立てて夕食は自炊するというかなりハードな4泊5日。周りの人と助け合わなければ絶対に乗り切れません。この環境の中で、人間の本質である共同性の大切さに気づき、それを磨くのです。

日程の後半には、カヤックやカッターの操船などの班活動を通して島ならではの生活を満喫します。苦しいことを乗り越え共同性を再認識・体得すれば、楽しさを共有する喜びが待っていると学ぶわけですね。「中学は厳しく、高校は自由に」という校風にもつながっているかもしれません。(青島キャンプもコロナ禍で制限のもとにあります。)

社会が注目する以前から探究やロボットプログラミングに注力

「教養」面では、高校・大学受験がないという時間的な余裕を活かして、探究学習に力を入れてきました。現在では多くの学校で取り入れている探究学習ですが、本校では「読書科」などの教科を通して、一般的に浸透する以前より取り組んできた歴史があります。

「読書科」では3年時に一人ひとり「卒業レポート」の作成が課されます。テーマは自由ですが、生徒たちの視点は面白いですよ。たとえば「カステラはなぜ広まったのか」「かつての日本では、なぜキリスト教が禁じられたのか」などなど……こうした疑問を自分で調べ、修学旅行(長崎)で実地調査に当たるなどして、最終的には一万字のレポートにまとめることがゴールです。

一般的にはクラブ活動などで取り組むことが多いロボットやプログラミングも、以前から技術家庭科や理科の「授業内で」実施しています。

脈々と受け継がれる「関学スピリット」

こうした伝統が脈々と受け継がれ、生徒や卒業生の愛校心が非常に強いのも本校の魅力でしょう。新制中学部・初代部長である矢内正一は「厳しく育てる=厳しく愛する」という理念のもと、先輩が後輩を育てる教育を目指しました。

それが現在の礎を築いており、先述の青島キャンプや新入生のオリエンテーションキャンプでのリーダーや、クラブ活動のコーチとして、さまざまな場面で「後輩のために」とかけつけてくれます。まさに「関学スピリット」であり、生徒たちも先輩の姿を見て「いつか自分もこうなりたい」「後輩の力になりたい」という気持ちに芽生えていくのです。

現状に甘んじず、自己変革を続けていける人を求む

本校は私学ですから、基本的に異動がありません。そのぶん、本校らしい多面的で全人的な教育で子どもたちの成長に関わり続けられることは大きな魅力でしょう。しかし、異動がないからこそ意識して自身を変え続けていかなければ、人は“澱み”ます。

特に教員は、自身の教育観を強く信じるあまり、その教育実践が硬直化してしまうことがありがちです。異なる意見や批判も甘んじて受け止め「変わることができる」しなやかさを忘れないでいて欲しいと思います。

また、子どもたちの成長の過程において、最も難しい年ごろなのが中学生。教員としては、しんどいことも多いと思います。しかし、本校が教員に求めたいのは、それをわかってなお「一人の人間を育てる」喜びを感じられること。自分の軸と柔軟性を併せ持ち、自己変革を続けていける人と共に働きたいですね。

(このインタビューは2022年3月に行いました。)