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生徒理解に必要な発達障害の視点と対応[STC研修レポート2021]

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発達障害の生徒への対応は、私立学校においても重要な課題の一つです。今回の研修は、早稲田大学大学院教育学研究科の髙橋あつ子氏を講師に迎え、発達障害の基礎的な理解と支援の考え方について学びました。特別支援教育に関する研修への参加が可能で、特別支援教育の校務分掌もある公立学校と異なり、私立学校は障害観や実践がアップデートされにくい面があります。一斉授業を脱却し、個に応じた学び方を実現する柔軟性があれば、真に「面倒見の良い学校」が実現します。初任・若手の先生方が、教員養成課程で学んだ知識を再確認し、具体的な支援につながる発想ができるようにと講義中心の研修となりました。

■研修講師

発達障害の視点と対応 髙橋あつ子氏

髙橋 あつ子 氏
早稲田大学大学院 教育学職研究科教授

誠実さと同時に求められる「個」への対応

新型コロナの感染が収束の気配を見せない中、今年度も学校生活は想定外の事態に翻弄され続けています。こんなときこそ、教師が生徒理解を深め、一人ひとりが充実した2学期および後期を送れるよう支援することが求められています。特に、発達障害をはじめとする障害の特性と社会に横たわるバリアについて正しく認識を持ち、支援につなげる教師力は、共生社会の実現をうたった2020東京オリンピック・パラリンピックのレガシーに連なるものではないでしょうおか。ぜひ若い先生方に伸ばしていただきたい点です。

髙橋氏の研修は体験を通して生徒理解の視点に気づくワークショップ形式が好評です。今年度こそ対面形式での開催を見込んでいましたが、緊急事態宣言の発令を受け、ビデオ通話ツール「Zoom」を用いたオンライン開催に変更となりました。

すべての教員には、個に応じた指導が課されており、その中に発達障害を持つ生徒への対応も含まれます。初任・若手の先生方は大学の教員養成課程で知識として理解していたことを、現場での対応に結び付けていかねばなりません。特に私立学校の場合は「面倒見の良さ」を期待して入学させる保護者が多いものです。「誠実であるだけでなく、特性に応じた丁寧さや的確さが担保されなくては子どもに不利益が生じる」と髙橋氏は言います。そこで、今回の研修の大目標を「生徒理解の視点を広げ、特性や実態に合った対応ができる」とし、受講の先生方には自分自身の課題、たとえば「提出物を期限に出せない生徒への理解を深める」などと設定してもらい、講義が始まりました。

生徒理解には3つの視点があります。学校や家庭、地域などの「社会的な環境要因」、発達課題などの「心理・発達的要因」、もともとの育ちにくさにあたる「生物学的要因」です。この社会、心、体という3つの枠組みで生徒理解をおこなうとき、今回は「体」という側面、つまりもともとの生徒の育ちにくさや弱さ、特性に焦点を当てて研修は進められました。

私学ゆえアップデートされない危険性も

研修中、髙橋氏が繰り返し指摘したのは、私立学校における特別支援教育の意識や実践力がアップデートされていない可能性です。「私立学校だから発達障害の生徒はいない」「私立に通わせる家庭には愛着形成などの心理・発達的にトラブルは起きない」「発達障害の生徒がいても支援するのは専門家であり教師ではない」などといった考えが少なからず現場に残っていると指摘します。公立学校では、ここ10年でチームとして発達障害の生徒を支援する校内体制づくりや、多職種の専門家との連携が実践されてきました。管理職を含め、どの教員も行政研修や校内研修で特別支援教育に関する研修を定期的に受けています。

一方、私立学校では、研修や体制づくりは学校に任されています。教員養成段階で「インクルーシブ教育」の考えに基づいた最新の知識・技能を得ている初任者・若手の先生方と、かつての「特殊教育」の考えが色濃く残る中でキャリアを積んできた中堅以上の先生方とでは、そもそもの障害観にズレが見られることも少なくないそうです。また、通学域の広さから地域の支援リソースが活用できないなど私立特有の困難さもあります。学校全体が、時代のニーズに合った専門性を確保していくためにも、初任・若手の先生は「現場で学ぶより、大学で学んだことを実践したほうが早い」と言えます。

認識の分水嶺は、21世紀に入り、障害を「医療モデル」ではなく「社会モデル」として捉えるようになったこと、そして、社会的障壁を取り除くことが共生社会の実現につながるという考え方に触れているかどうかで決まります。髙橋氏はイギリスの物理学者、スティーヴン・ホーキング博士の例や、かつてないほどLGBTQが活躍した今回の東京2020オリンピック・パラリンピック大会などを例に「社会モデル」を解説しました。

教育界では、2012年に文科省が「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」を取りまとめ、その後、障害者差別解消法、発達障害者支援法などの法律が整えられて、特別支援教育の充実が図られてきました。発達障害の理解や支援の考え方も、そして先生一人ひとりの授業や生徒対応も、こうした世界の潮流を前提として進めていかねばならないのです。

発達障害の各特性と支援例を解説

公立・私立を問わず、多くの教育委員会や学校の特別支援教育に携わってきた髙橋氏の願いは「私立学校でも特別支援教育が標準装備になること」です。後半は、発達障害の特性を、学習面、行動面、対人関係面の3つから概観し、その特性に応じた支援の具体例が示されました。

LD(学習障害/学習症)やADHD(注意欠如・多動症)、ASD(自閉症スペクトラム症)などの診断名にとらわれると、「医療モデル」に考え方が引きずられてしまいます。「読みの困難がある」「計算が苦手」「ぼーっとしている」「こだわりが強い」など、具体的な特性を見極め、教員間で話せることが、ふさわしい支援、合理的配慮の提供への第一歩になります。

学習面での困難さは、聞く、話す、読む、書く、計算する、推論することなどに見ることができます。これらの困難さは、情報処理のプロセスの偏りであり、画一的な古い授業スタイルでは力を伸ばせません。その生徒の情報処理スタイルに合った方法で対応することが支援のポイントになります。たとえば「書き」の難しさがある生徒はノートを取るのが遅くなります。もし「運筆」が困難ならばパソコン入力やICレコーダーでの録音で、また「視機能」によるものなら板書をタブレットで撮影するなどの方法を採れば、「ノートを取る」ことができます。

行動面の困難さは、多動・多弁、落ち着きがない、気が散りやすい、忘れ物が多いなど、さまざまです。一連の行為を遂行する実行機能に弱さがあり、さらに学校特有の課題達成のプロセスが絡み合って生じています。「宿題を期日までに提出する」ことも単体ではなく、いつまで何をするかインプットし、作業の見積もりを立て、優先順位や作業手順を決め、時間を管理し、途中経過をモニタリングする、など複数の認知機能を総動員してできることなのです。従って課題達成までに必要な技能・能力を細分化し、どこにつまずきがあるのかを見定め、その力を付けていく方法を見つけることが有効です。

社会性に困難がある生徒は、目を合わせない、消極的、興味があることだけ熱中する、対人関係が苦手などとして気づけます。言葉の裏にある相手の意図を想像するのが苦手なため、額面どおりの答えをして相手を怒らせてしまう等、思春期ほど深刻になります。場に求められるソーシャルスキルを後天的な知識として身につけ、選んで行動できるよう育てていきたいものです。このほか、触覚過敏や感覚過敏を持つ生徒の特性についても解説がありました。

学習者中心の多様な学びができるように

今回の研修は、発達障害の特性や支援の具体例が、数多く盛り込まれた内容でした。最後に髙橋氏は、「個別対応を実現するには、同質性を前提とした一斉指導を見直し、学習者中心の多様な学び方を保障することが不可欠」と強調しました。コロナ禍でタブレットを用いた個別最適な学習を可能にした私立学校もあったように、誰もが自分に合った学び方が保障される、柔軟な文化を持つ学校へと体質改善していけば、すべての生徒の成長に寄与することができる。そうポジティブに締めくくって研修は終了しました。

受講後のアンケートでは、発達障害に関する具体的な知識が得られ、理解の手がかりをつかんだ実感が読み取れる感想を多数見ることができました。

「大変わかりやすい講義で、非常に参考になった。私立学校への目線やさまざまな環境の整備に関する具体的な提言、教員が”頑張る”だけでない意識の持ち方など、今後の指針となった」
「実は髙橋先生の授業を大学時代に受講していたが、そのときから情報のアップデートがされており、常日頃から情報のアンテナを張っておく必要性を思い知らされた」
「ノートの提出や生徒へのアプローチなどで、自分がしてしまっていた悪い部分に気づけた」
「強い特性で弱い面をカバーするという支援は、勉強だけでなく、部活動などにも共通する。特性に応じて対応できる環境づくりが大切だと再認識した」など、濃密な2時間の講義に満足した先生方が多数いらっしゃいました。

■研修概要
日時:2021年8月21日(土)10:00~12:30
場所:Zoomオンライン

■講師紹介
髙橋 あつ子 氏
早稲田大学大学院 教育学職研究科教授
千葉大学教育学部を卒業後、川崎市公立小学校の教諭を経て、横浜国立大学大学院にて教育心理学を専攻。教育学修士。川崎市総合教育センター指導主事、早稲田大学教育学部非常勤講師(兼業)、川崎市立小学校教頭を歴任。現職に至る。のぼりと心理教育研究所スーパーバイザー。臨床心理士、学校心理士スーパーバイザー、特別支援教育士スーパーバイザー。著書に「発達に偏りのある子のトラブルを減らす自己理解イラスト教材」(共著、2015 ほんの森出版)「私学流 特別支援教育」(2018、学事出版)他。

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