教員の仕事はAIに奪われるのか? AI時代に変わる教員の役割とは|AI時代の教員が知っておきたいこと(3)
AIが教育を変える主役になるわけではない——そう前置きしたうえで、「大切なのは、教員がAIとどう向き合い、どう使うかだ」と西本先生は話します。AIは教員の実践を支える存在であり、教育の中心に立つのは、あくまで人だという考え方です。
最終回となる今回の記事では、実際に教育現場でAIを活用していくなかで、これからの教員に求められるスキルや考え方とはどのようなものなのか、お話を伺います。
生成AIを使える教員と使えない教員の違い|
鍵は「問い」を持てるかどうか
「AIをうまく活用できるかどうかの差は、使う側が『問い』を持っているかどうかだと思います。とくに生成AIでは、『何のために、どんな視点や意見がほしいのか』が明確でなければ、表面的な答えしか返ってきません」と西本先生は語ります。
西本先生が開発に携わった「AI添削トレーニング」(提供:エデュケーショナルネットワーク)では、AIが日本語表現や構成だけでなく、論点のずれや主張の弱さなど、内容面についてもフィードバックを行います。
添削の初期段階をAIに任せることで、教員には時間的な余裕と、生徒の思考に向き合う余白が生まれます。その余白を使って、教員は生徒と対話しながら考えを掘り下げたり、次の問いを投げかけたりすることができます。
現状の小論文指導が添削に追われる構造になりやすい中で、後回しにされがちだった「対話を通じた学び」に、時間とエネルギーを向けられるようにするための設計だと言えるでしょう。
AI時代に教員の価値はどこに残るのか|
人にしかできない判断と関わり
「AI添削トレーニング」は、総合型選抜・学校推薦型選抜を中心とした、大学入試における志望理由書作成にも対応しています。AIは、日本語表現や構成に加え、「大学で何を学びたいか」をはじめとした書き手の主張が十分に伝わっているか、根拠との関係に無理がないかといった点についてもコメントを行います。完成レベルを10とするならば、まずはレベル5程度まで整える役割をAIが担います。
書類として正しく書かれていても、それを書いた生徒の思いや強み・個性などがきちんと反映されているかどうかは、日々つぶさに生徒のようすを見ている教員だからわかること。つまり、AIにレベル5まで持っていってもらい、そこで「真打ち」たる教員の登場というわけです。西本先生も「これまでは、レベル5に到達するまでに教員のリソースが割かれすぎていた」と言います。
こうした取り組みは、教員の仕事がAIに置き換わるという話ではありません。仕事を奪う存在ではなく、個別最適な学びを実現するためのパートナーとしてAIを位置づけることで、教育現場には新たな余白と可能性が生まれていくのでしょう。
なぜ教員は「答えを教えない」役割へ向かうのか|
対話を導く存在として
「教員の役割が変わる」という意味では、「学内で誰が小論文や志望理由書の添削を担うのかも変わってくるだろう」と西本先生は指摘します。これまでは、「文章のことだから国語の先生」という慣例的な割り振りが行われていました。その結果、彼らに添削業務の負担が集中していました。しかし、仮にその役割をAIが引き受けてくれるなら、担当教科に関係なく、より多くの教員が関われる業務になっていくでしょう。
このように、小論文や志望理由書作成の基礎づくりをAIが支えるようになれば、教員には正解を示す役割以上に、思考や対話のプロセスを前に進めるファシリテーターとしての関わりが求められていくと考えられます。
西本先生も「教員=知識を授ける存在としての要素は薄れていくでしょう。生徒とは『上下関係』でなくなるというか。最近の流行りの表現で言えば、『伴走者』でしょうか」と述べ、教員の役割が変わっていく世界を予測します。現在は、まさにその過渡期に立っているのです。
探究学習時代に求められる教員像|
正解を示す人から共につくる人へ
奇しくも世界は「VUCA(ブーカ)」と呼ばれ、不確実で将来予測が困難な時代に突入したと言われます。探究学習が急速に重視されるようになってきたのも、正解主義的な教育だけでなく、生徒自身が正解なき問いに向き合い、自ら考え、自分なりの解を導き出していく力を育む教育が必要だという危機感からです。
そのような時代において、もはや教員は生徒を「正解」へ導く存在ではなくなります。西本先生は「かつては自分も講義でわかりやすい解説をして、生徒をうなずかせ、納得させるのが最も素晴らしい授業だと思っていました。しかし『正しい答え』が存在せず、誰にも分からない問いに向き合うのであれば、教員は生徒と一緒に『ともに答えをつくっていく存在』になる必要があります。ファシリテーターであり、ナビゲーターとしての役割です。戸惑いや葛藤もあるかもしれませんが、そうした関わり方が、いま求められています」と語ります。
AI時代に必要な教員スキルとは|
不確実さを楽しむ力と学びを導く姿勢
「これからの教員は、正解がわからないことを不安に思うよりも、人の数だけ正解があることを面白がればいい。生徒と一緒に答えを探していくプロセスを面白がればいい。AIは敵ではありません。『これを使えばもっと面白い教育ができるかも』という『面白がり力』を高めることが必要になるのでは」と西本先生は言います。
教育を変えるのはAIそのものではなく、AIとどう向き合うかという教員の姿勢。AIを一つの道具として受け取り直し、生徒とともに学びをつくっていく。その積み重ねが、結果として教育のあり方を少しずつアップデートしていくのではないでしょうか。

(記事監修)西本裕樹(にしもと ゆうき)
Z会グループオーダー講座講師。主に小論文・志望理由書・探究領域の指導を担当。高校・大学、予備校などで教壇に立ち、「学びのデザイン」と「個性の言語化」を軸に多様な教育現場に関わっている。また、教材開発やクリエイティブワークショップの設計・運営を行うPLAYFUL POCKETの代表として、学びや表現の新しい形を発信。AI活用にも積極的に取り組み、エデュケーショナルネットワークと協働してAI教材「AI添削トレーニング」の開発に携わった。

(筆者)松見敬彦(まつみ たかひこ)
ライティングオフィス・トリガーワークス主宰。教育業界を中心に寄稿やコピーライティングを手掛けるフリーライター。主体性なく自堕落な若者時代を過ごした反省から、教育の価値や可能性を痛感、ペンの世界で教育への貢献を志す。高校改革を軸とした地方創生ムーブメント「高校魅力化プロジェクト」にも参画し、大学入試の志望理由書や小論文、キャリア教育の外部講師なども務める。広島県出身、大学進学に伴って長らく大阪で暮らしたのち、宇治茶の最大産地でもある京都府和束町にイナカ移住。妻と、特別養子縁組で迎えた息子の3人家族。



